令和4年度 3月議会定例会(2023)

大久保清美 一般質問 質問項目

1.広域避難計画策定の進捗状況について
(1)避難先の確保について
①1人当たりの避難所面積の見直しについて
②避難所の不足について
③パーティションやテントの準備について

(2)移動手段の確保について
①一般人及び「その他の要配慮者」(妊婦等)について
②社会福祉施設の入所者及び医療機関の入院患者について
③在宅の避難行動要支援者について

(3)要配慮者の避難について
①社会福祉施設及び医療機関の避難計画策定率について
②在宅の避難行動要支援者の「個別避難計画」作成について

(4)安定ヨウ素剤の配布について
①事前配布率及びその向上策について
②緊急配布体制について
(5)屋内退避について
(6)複合災害への対応について
(7)市職員の人員配置体制について



1.避難先の確保について
県は、コロナ等の感染症対策も踏まえ、パーティションテントを前提に、1人当たりの避難所占有面積を従来の2㎡から3㎡以上(ともに通路等を含む)に見直すとする改定案を本年3月中に決定し、今後、県内外の自治体と協議を進める予定です。しかし1人3㎡以上といっても、通路等共有部分を除けば1人実質2㎡(基本的に4㎡のテントを2人で占有することを想定)であり、スフィア基準などとは大きくかけ離れています。また1人当たりの占有面積を増やすことにより、避難所の数が不足することになります。県内の避難所はもうこれ以上増やすことができませんので、占有面積増に伴い発生する約13万人の不足分を今後新たに県外で確保しなければなりません。避難先の確保については、今後の課題になります。

本年3月時点の達成状況:×

2.移動手段の確保について
避難は原則自家用車ですることになっていますが、自家用車で避難できない一般の方、妊婦・乳幼児等の要配慮者、社会福祉施設の入所者、病院の入院患者、在宅の避難行動要支援者等の避難に必要なバス・福祉車両等の台数を、市は把握していません。市は一時集合所に集合した人数を、県が運営する「バス等配車オペレーションシステム」に入力することになっていますが、果たして必要なバス・福祉車両が本当に迅速にやってくるのかどうかは県任せということです。県が必要な台数をどの程度見積もり、どの程度確保しているかは不明です。ただ私の試算では、本市における在宅の避難行動要支援者約3,300人に対してだけでも、約1,000台の福祉車両が必要です。とても現実的に対応できる数字ではありません。

本年3月時点での達成状況:×

3.要配慮者の避難について
本年3月時点における本市の社会福祉施設の避難計画策定率は58%(66施設中38件策定済)、医療機関のそれは33%(15病院中5件策定済)です。各施設・病院がこのように避難計画策定に苦労しているのは、避難先の施設・病院の確保、入所者・入院患者の安全な避難方法、搬送車両の確保、スタッフの確保などがすべて施設・病院任せで、県・市のサポートがあまり期待できないためです。また、在宅の避難行動要支援者を対象とした原子力災害対策に係る「個別避難計画」の作成は、今後避難所が確定した後に取り掛かる予定です。要支援者一人ひとりの「個別避難計画」作成には避難を手伝う支援者の同意も必要ですが、 UPZ(長砂地区以外の全市域)では避難時に被ばくを伴う話になるので、作成は困難を極めるでしょう。

本年3月時点での達成状況:×

4.安定ヨウ素剤の配布について
安定ヨウ素剤の事前配布率は、令和4年3月末時点で、丸剤が23.3%、3歳未満に配布しているゼリー剤が87.5%です。ゼリー剤の配布率が高いのは、1歳6か月児健康診査の際に受け取れるよう、市が便宜を図っているためです。服用のタイミングは被ばく前24時間から被ばく後2時間までとなっていますので、事前配布が特に重要です。そのため本市は、国や県の方針に抗してUPZの住民にも事前配布を行っています。せっかくの市独自の施策を生かすため、市民の協力が求められるところです。しかし、事故が起こった後の緊急配布の際の具体的な配布場所や配布体制などについては、まだこれからの検討課題です。

本年3月時点での達成状況:△

5.屋内退避について
国の原子力災害対策指針によれば、原発事故が進展し、「全交流電源の喪失」「非常用炉心冷却装置による注水不能」といった状況に至った場合でも、避難するのはPAZ(長砂地区)の住民のみで、UPZ(長砂地区以外の全市域)の住民は基本的に屋内退避となります。UPZの住民が避難するのは、毎時500μSv以上になった場合(即時避難)、もしくは毎時20μSv以上になった状態が続いた場合(1週間以内に一時移転)です。しかし、これらの線量基準は高すぎ、住民に高線量下での避難を強いることになりかねません。500μSvというのは、2時間で平常時の公衆の被ばく限度とされる年1mSvに達してしまう高いレベルの基準です。ぐんぐん線量が上昇しているような状況下で住民に屋内退避をさせ、高い線量になってから避難をさせるというのは、住民を被ばくから守るという観点からは適切でないと私は考えます。なお、一般木造家屋の被ばく線量低減割合は約5割に過ぎません。

⇨国の主張は、屋内退避・段階的避難をせずに皆が一斉に避難し始めると交通渋滞を引き起こし、かえって余計な被ばくをしてしまう、というものです。それはそうかもしれませんが、留まっても被ばく、逃げても被ばくであるならば、そのようなジレンマに陥らないために、そもそも無理な再稼働をしなければよいのではないでしょうか。

6.複合災害への対応について
現在の原子力災害対策指針や避難計画では、地震・津波・台風などの自然災害と原子力災害とが同時に生じる「複合災害」に対応できません。また、複数の原子力事業所における事故発生も想定していません。つまり、市はそもそも複合災害に対応した広域避難計画を策定することはできません。

本年3月時点での達成状況:×

私の意見
私の意見

屋内退避の是非については市民各位のご判断に委ねますが、それ以外の5つの事項の達成状況については、上で見てきたように、そのうちの1つが△、4つが×でした。つまり、
現時点では実効性のある広域避難計画はまだほとんどできていないということです。特に「移動手段の確保」や「複合災害への対応」については、今後も大きな課題として残るでしょう。

知事も市長も「実効性のある避難計画がなければ東海第二原発の再稼働は認められない」と公言しています。安易な地元同意へと至らないよう、今後も議会等で避難計画の実効性の検証を続けて参ります。