令和5年度 6月議会定例会(2023)

 去る5月31日、原発の60年超運転を可能にする「GX法」が国会で可決成立しました。これにより、東海第二原発については76年超の運転も可能になりました。しかし、東海第二原発の設計時の耐用年数は40年とされています。運転開始以来、すでに44年以上が経過しています。法案は停止期間を運転期間から除外するとしていますが、原発が停止していても、原子炉、配管やケーブル、ポンプ、弁など原発の各設備・部品は劣化します。交換できない部品も多く、電力会社の点検できる範囲も限定的です。世界の原発の平均寿命は29年です。いくら立派な防潮堤を作っても、いくら注水設備を増強しても、老朽原発本体の安全性には危惧の念を抱かざるを得ません。

 2021年3月の水戸地裁判決は、広域避難計画に不備があるとして、東海第二原発の運転差し止めを命じました。知事も市長も常々、「原発の安全性の確保と実効性のある避難計画がなければ再稼働は認めない」と公言しています。原発の安全性については、最終的には「専門家」の判断に委ねることになるでしょうが、避難計画の実効性については、まさに私たち地元の住民こそが正しく判断できます。国その他からの圧力で住民不在の地元同意へ至らないように、住民を代表する市議会はしっかりと、避難計画の実効性について検証していかねばなりません。そこで私は、3月議会に引き続き6月議会においても、広域避難計画策定の現状について課題ごとに質問し、本年6月時点における達成状況を検証しました。以下、その結果をご報告いたします。

1.避難先の確保について

 県は本年3月、コロナ等の感染症対策も踏まえ、1人当たりの避難所占有面積を従来の2㎡から3㎡以上に見直しました。しかし、1人当たりの占有面積を増やすことにより、従来の避難所割り振りを全面的に見直す必要が生じました。県内の避難所数はもうこれ以上増やすことができませんので、占有面積増に伴い発生する約13万人の不足分を新たに県外で確保しなければなりません。現在、県外自治体との交渉がやっと始まったところです。

⇒本年6月時点での達成状況:×

2.移動手段の確保について

 避難は原則自家用車ですることになっていますが、自家用車で避難できない一般の方、社会福祉施設の入所者、病院の入院患者、在宅の避難行動要支援者等の避難に必要なバス・福祉車両等の台数を、市は把握していません。市は一時集合所に集合した人数を、県が運営する「バス等配車オペレーションシステム」に入力するだけで、必要なバス・福祉車両が本当に迅速にやってくるのかどうかは県の責任です。県が必要な台数をどの程度見積もり、どの程度確保しているかは不明です。ただ私の試算では、本市における在宅の避難行動要支援者約3,300人に対してだけでも、約1,000台の福祉車両が必要です。とても現実的に対応できる数字ではありません。

⇒本年6月時点での達成状況:×

3.要配慮者の避難について

 本年3月時点における本市の社会福祉施設の避難計画策定率は58%(66施設中38件策定済)、医療機関のそれは33%(15病院中5件策定済)です。また、在宅の避難行動要支援者を対象とした原子力災害対策に係る「個別避難計画」の作成は、今後避難所が確定した後に取り掛かる予定です。要支援者一人ひとりの「個別避難計画」作成には避難を手伝う支援者の同意も必要ですが、UPZ(長砂地区以外の全市域)では避難時に被ばくを伴う話になるので、作成は困難を極めるでしょう。

⇒本年6月時点での達成状況:×

4.安定ヨウ素剤の配布について

 安定ヨウ素剤の事前配布率は、本年3月末時点で、丸剤が23.9%、3歳未満に配布しているゼリー剤が25.1%です。現在は更新時期ですので一時的に配布率が下がっていますが、ゼリー剤については1歳6か月児健康診査の際に受け取れるよう市が便宜を図っていますので、今後増えていくものと思われます。服用のタイミングは被ばく前24時間から被ばく後2時間までとなっていますので、事前配布が特に重要です。そのため市は、独自の方針としてUPZの住民にも事前配布を行っています。しかし、事故が起こった後の緊急配布の際の具体的な配布場所や配布体制などについては、まだこれからの検討課題です。

⇒本年6月時点での達成状況:△

5.屋内退避について

 国の原子力災害対策指針によれば、原発事故が進展し、「全交流電源の喪失」「非常用炉心冷却装置による注水不能」といった状況に至った場合でも、避難するのはPAZ(長砂地区)の住民のみで、UPZ(長砂地区以外の全市域)の住民は基本的に屋内退避となります。UPZの住民が避難するのは、毎時500μSv以上になった場合(即時避難)、もしくは毎時20μSv以上になった状態が続いた場合(1週間以内に避難)です。しかし、これらの線量基準は高すぎ、住民に高線量下での避難を強いることになりかねません。500μSvというのは、2時間で平常時の公衆の被ばく限度とされる年1mSvに達してしまう高いレベルの基準です。ぐんぐん線量が上昇しているような状況下で住民に屋内退避をさせ、高い線量になってから避難をさせるというのは、住民を被ばくから守るという観点からは適切ではありません。なお、一般木造家屋の被ばく線量低減割合は約5割に過ぎません。

⇒国の主張は、屋内退避・段階的避難をせずに皆が一斉に避難し始めると交通渋滞を引き起こし、かえって余計な被ばくをしてしまう、というものです。それはそうでしょうが、留まっても被ばく、逃げても被ばくであるならば、そのようなジレンマに陥らないためには、そもそも無理な再稼働をしなければよいのではないでしょうか。

6.複合災害への対応について

 現在の原子力災害対策指針や避難計画では、地震・津波・台風などの自然災害と原子力災害とが同時に生じる「複合災害」に対応できません。また、複数の原子力事業所における事故発生も想定していません。つまり、市はそもそも複合災害に対応した広域避難計画を策定することはできません。これは本来、国の責任です。

⇒本年6月時点での達成状況:×

7.スクリーニング体制について

 内閣府避難時間推計ガイダンスによれば、退域検査所における処理能力は乗用車の場合、1台あたり3分と想定しています。また、現在県が予定している検査場所は37カ所です。1つの検査所に検査レーンを3レーン設けるとし、仮に30km圏内のすべての自動車約30万台がスクリーニングを受けるとすると、スクリーニング終了までに約6日間かかります。現状ではスクリーニングが避難の妨げになることは明らかです。

⇒本年6月時点での達成状況:×

8.避難途中でのトラブル対策について

 例えばガソリン補給については、市の原子力災害対応ガイドブックに「自家用車での避難に備えて、ガソリンはこまめに給油しておきましょう」とあるだけで、それ以上の対策はありません。

⇒本年6月時点での達成状況:×


私の意見
私の意見

屋内退避の是非については市民各位のご判断に委ねますが、それ以外の7つの課題の達

成状況については、上で見たように、1つが△、6つが×でした。また、市職員の人員配

置体制や避難先での駐車場の確保についても質問しましたが、いずれも未達成でした。

つまり、現時点では実効性のある広域避難計画はまだほとんどできていません。今後、

不十分な避難計画のまま見切り発車とならないように、議会等で引き続き、避難計画の実

効性について検証を重ねて参ります。

*6月議会では他に、不登校対策としての「校内フリースクール」と「民間フリースクール」について、また東海第二原発再稼働をめぐる最近の動向について質問しました。