大久保清美 一般質問 質問項目
- 東海第二原発防潮堤工事不良について
- 東海第二原発放射性物質拡散シミュレーションについて
- 広域避難計画の策定基準について
ひたちなか市議会6月定例会(一般質問)報告
はじめに
5 月12日、原発を止めた裁判長として有名な樋口英明さんの講演会が水戸市で行われました。樋口さんは2014年5 月、福井地裁裁判長として関西電力大飯原発3 ・4 号機の運転差止を命じる判決を下し、さらに翌年4 月には関西電力高浜原発3 ・4 号機の再稼働差止の仮処分決定を下しました。
樋口さんは、①原発の過酷事故は極めて甚大な被害をもたらす。②それ故に原発には高度の安全性(事故発生確率が低いこと)が求められる。③地震大国日本において原発に高度の安全性が求められるということは、原発に高度の耐震性が求められるということにほかならない。④しかし、わが国の原発の耐震性は極めて低い。⇒「よって、原発の運転は許されない」という樋口理論と呼ばれる独自の論法をもって判決を下しました。
東海第二原発について見れば、1978年の運転開始当時の基準地震動(≒耐震設計基準)は270ガルだったものが、3.11当時は600ガル、現在は1,009ガルと、老朽化するに従って耐震性が上がっていくという不思議さ、怪しさがあります。しかし一応1,009ガルという耐震設計基準を信じるとしても、他方で2000年以降に日本全国で1,000ガル超えの地震が20回も起こっているという事実があります。
つまり、1 年にほぼ1 回のペースで東海第二原発の耐震設計基準を超える地震が起こっています。また、今後30年以内に東海村が震度6 強(830 ~ 1,500ガルに相当)以上の地震に見舞われる確率は17.3%との予測もあります。これは地震の予測確率としては「高い」とされるレベルです。したがって、以上のことを樋口理論に照らせば、「東海第二原発の運転は許されない」ということになります。
それでは以下、東海第二原発再稼働に係る目下の重要問題についてご報告いたします。
1.東海第二原発防潮堤工事不良について
昨年の12月議会でも取り上げましたが、日本原電は昨年10月16日、防潮堤工事に施工不良があったと発表しました。
防潮堤の取水口上部の鋼製防護壁(重さ4,600トン)を支える2 本の巨大な基礎(15.5m四方、南基礎深さ50m、北基礎深さ56m)の「地中連続壁」の一部に、コンクリートの未充填及び鉄筋の変形等が多数確認されました。また、北基礎の西南角エレメントにおいて、鉄筋かごが岩盤から70cmの高さまでしか入らず、岩盤に到達していないことも判明しています。
そもそも、深さ50mを超える溝を掘り、そこに鉄筋かごを入れ、コンクリートを流し込み、厚さ2.5m、四辺15.5m、深さ50m超の鉄筋コンクリート壁枠を作るという「地中連続壁工法」は、型枠もなしにコンクリートの壁を直接見えない地中で作るという難易度の高い工法です。溝を掘るとき、土砂の壁が膨らんだり崩れ落ちたりしないように「安定液」で溝を埋め、周囲の土砂の圧力と均衡させることで土砂の壁を保った上で、鉄筋かごの沈設及びコンクリートの充填が行われなければなりません。しかしこれは高度な作業で、また安定液の比重の不正もあり、結果として今回のような施工不良が起きた次第です。
津波による炉心損傷確率が国内で最も高いと言われる東海第二原発の防潮堤は、安全対策の要です。それにもかかわらず、コンクリート未充填、鉄筋露出、北基礎鉄筋の設計深度未到達は、認可された設計・施工に反しており、「基準不適合」状態です。工事をやり直さなければなりません。
このように認可された設計通りの施工ができないことは、原電の品質管理能力の欠如を示しています。新規制基準に従った「安全対策工事」の信頼性はなくなっています。この他の工区においても本当に施工不良はないのか、原電は調査をし、結果を公表すべきです。
内部告発がなければ工事不良は隠蔽されていました。発覚後も原電は、工事のやり直しではなく、補修で済ませようとしています。しかし、6 月18日に行われた原子力規制委員会の第2 回東海第二防潮堤設計変更審査会合において、審査を担当する原子力規制庁の担当者は、鉄筋が変形していることも踏まえ、防潮堤の設計自体を抜本的に変更し、不備が見つかった部分を建て直すことも含め検討するよう、原電に求めました。これに対し原電は、今のところ回答を保留しています。発覚当初の昨年10月18日、原子力規制委員会の山中委員長は「まだ工事途中であって、最後の使用前検査でしっかりチェックするから問題ない」と発言しました。
しかし、この工事不良はとても看過できるような問題ではないことから、原子力規制庁は軌道修正をしてきたのだろうと思われます。しかし、厳しいことを言いながら最後は認めてきた従来の経緯を考えれば、私たち地元住民は、今後の審査や原電の対応をしっかりと監視していかなければなりません。なお目下の事態を踏まえ、6 月議会において市長からも、「今後の審査や、原電の安全対策工事の対応について、注視していく」との答弁がありました。
2.東海第二原発放射性物質拡散
シミュレーションについて
昨年12月議会でも取り上げましたが、県は昨年11月28日、東海第二原発で炉心が損傷する重大事故が起きた場合、放射性物質が周辺にどのように拡散するかのシミュレーション結果を公表しました。
それによると、事故対応状況や気象条件を変えた計22パターンのうち、原発から30㎞圏内の避難者は最大で約17万人に上るとのことでした。
しかし、原電が県に提出したこのシミュレーションでは、最悪のケースとする格納容器破損ケース(シミュレーションⅡ)の放射性物質放出量が福島第一原発事故の約100分の1 という極端な過小想定となっています。なぜこのような過小想定になったのかと言えば、その理由は、原電が県からの要請に応じて、「30km周辺まで避難・一時移転の対象となる区域が生じる」ように被害を限定したからです。しかし、福島第一原発事故の現実からもわかるように、放射性物質は、50km離れた飯舘村にも容赦なく降り注ぎました。被害が30km圏内で収まるという保証はどこにもありません。
このように、拡散シミュレーションの科学的問題点は、県が被害を小さく見せかけようとしていることです。したがって、その結果出てきた「最大17万人避難」も過小評価です。県はまた、今年2 月に出した『原子力広報いばらき第7 号』でこのシミュレーションを参考に避難計画の「実効性」を検証するとしていますが、過小に見積もった避難人口で検証することはできません。
それにもかかわらず、県は30km圏内91万人全員分の避難先を探す一方で、バス・福祉車両等の数については、91万人相当分ではなく、17万人相当分を確保すればよいと考えているように見えます。
つまり、ダブルスタンダードを使い分けようとしています。そもそも17万人相当分のバス・福祉車両等を確保するのも大変ですが、しかし、最悪の事態を想定すべき防災の基本からすれば、県は91万人相当分のバス・福祉車両等を確保しなければなりません。しかし、これが全く不可能なので「最大17万人避難」を言い出したことは、想像に難くありません。
昨年12月議会の私の一般質問に対し、ひたちなか市は県と同様、「全市民分(約15.5万人分)の避難先を確保する」との答弁でした。そこで、それでは「バス・福祉車両等の数については17万人相当分(本市については約7 万人相当分)という県の考えをそのまま受け入れるのか」という今回( 6 月議会)の質問に対しては、明確な答弁はありませんでした。
おそらく県の方針は受け入れざるを得ないと考えているのでしょう。しかし過酷事故の際、バス・福祉車両等の不足により多くの住民が余計な被ばくを余儀なくされたら、いったい誰が責任を取るのでしょうか。
3.複合災害対策について
今年元日に発生した能登半島地震を通して、現在の原子力災害対策指針とそれに基づく自治体の広域避難計画とがいかに非現実的であり、住民を守るために役に立たないものであるかが改めて露呈しました。多くの家屋が倒壊し、あちこちで道路が寸断される中では、原発事故に伴う屋内退避も広域避難も絵に描いた餅であることが明らかになりました。どうしても原発を動かすというのならば、原子力災害対策指針を抜本的に見直し、地震等の自然災害と原子力災害との複合災害対策を徹底する必要があります。
しかし、原子力規制委員会は「屋内退避運用検討チーム」での検討でお茶を濁すのみで、抜本的な見直しをするつもりはないようです。無責任の極みと言わざるを得ませんが、このままでは本市でも、地震・津波と東海第二原発・東海再処理施設等との複合災害の際には、家屋倒壊等により屋内退避できない多数の住民が、道路寸断等により広域避難することもできず、放射性物質が漂う屋外で被ばくを強いられることになります。
ちなみに、国交省の「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書」にある計算式を用いた私の試算によると、本市UPZ(長砂地区以外の全市域)のうち、1981年以前に建てられた旧耐震建築物は10,790戸あり、そのうち震度6 以上の一度の揺れで倒壊する戸数は1,424戸、さらに1981年から2000年までの間に建てられた「新耐震」住宅を含め、余震で倒壊する戸数は3,706戸となり、合計で5,130戸が倒壊する可能性があります。つまり、1 戸2 人の住民として、1 万人超のひたちなか市民が、屋内退避できず、避難もできず、放射能にさらされることになります。この試算結果について3 月議会で市の考えを問いましたが、「(緊急輸送道路確保のために)幹線道路沿いの住宅等の耐震強化を図る」と
いう以上の答弁は得られませんでした。
ところで、基礎自治体には複合災害対策を国・県に転嫁する動きがあります。最近相次いで策定できたとされる東海村・日立市の避難計画は、複合災害が考慮されていません。しかし、自治体には住民の生命・生活を守る責務があります。複合災害時の避難の現実から目を背けてはなりません。例えば、地震による家屋倒壊、火災発生、道路寸断、ライフライン停止の中で、原発事故による空間放射線量上昇に伴う避難指示が出された場合、在宅の要配慮者をどう避難させるかという課題があります。福祉車両の手配は県の仕事ですが、実際に避難させるのは基礎自治体の仕事です。したがって、この避難計画を立てなければなりません。複合災害対策は国・県の仕事だと言って、思考停止することは許されません。
3 月議会の一般質問において、避難計画に関し市長から「市としての課題と、国・県と連携した広域的な課題を整理する必要がある」との答弁がありました。複合災害対策は「国・県と連携した広域的な課題」のひとつと考えての答弁と思われますが、しかし、上述したように、「市としての課題」の中にも複合災害対策はあるはずです。そこで今回の6 月議会では、今後の本市の避難計画策定検証のために、「市としての課題」には具体的にどのようなものがあるか、質問しました。
しかし、残念ながら今回は議論が深まりませんでした。これについては、9 月議会でまた議論します。
なお現在のところ、「本市の避難計画策定の時期については、まだ見通しが立っていない」との市長答弁を得ていることを追記しておきます。